最高裁判所第一小法廷 昭和27(オ)145 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人藤林益三の上告理由について。
論旨は違憲をいう点もあるが、その実質は、被上告人B寺派管長が上告人に対し、
所論誓約書に基づきなした本件退職処分を有効であるとした原判決は、宗制及び寺
院規則の解釈適用を誤つた違法があると主張するに帰する。
しかし、原審の適法に確定したところによれば、控訴人はD寺住職就任にあたり
昭和一七年一月附をもつて、被控訴人B寺派管長に対し、(一)檀信徒の教導を怠
らないこと、(二)宗務所の命令を遵奉し部内の和合を破らないこと、(三)堂宇
及び法宝物什器等の保存を怠らないこと、若し右各条項に違背の節は退職を命ぜら
れても異議がない、旨の誓約書を差入れたこと、被控訴人B寺派管長は同派旧宗制
(昭和一六年三月三一日より施行せられたもので、昭和二二年六月一日施行の新宗
制による改正前のもの)三四条、六六条により内局会の議を経て所属末寺の住職又
は代務者の任免を行う権限を有すること、被控訴人B寺派管長は控訴人に右誓約書
所定の条項に違背する非行があるとして内局会の審議を経た上昭和二一年六月一四
日附をもつて控訴人を退職処分に附したものであることを夫々認めることができる
というのである。
ところで、論旨は、B寺派の前記旧宗制に懲戒規定の存することを挙げ、右旧宗
制に懲戒規定の存在する以上、上告人を免職処分に附するためには、専らその懲戒
規定によるべきであるに拘らず、原審はこの点を看過して、上告人が住職就任にあ
たり、被上告人B寺派管長に差入れた誓約書に捉われ、管長において、住職の行為
がその誓約書に違背すると認めたときは、自由に退職を命ずることができるごとく
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解していることを非難する。なるほど、旧宗制に所論のような懲戒規定が存する以
上、宗派の統制に服する者が部内の秩序をみだし、右懲戒規定に該当するに至つた
場合には、宗派内の秩序を保持するため、その者の意に反して免職その他の不利益
を加えてこれを懲戒することができるものであると同時に、その者の前記のごとき
非行を理由として、その者の意に反して免職その他の不利益を加えてこれを懲戒す
るがためには、旧宗制所定の懲戒規定によるべきものであることは当然であつて、
その限度において、宗派に属する役職員らは、身分の保障を享有するものといわな
ければならない。しかしながら、一方において、所論のごとく、B寺派の前記旧宗
制三四条が「管長ハ宗務役員及職員、住職、教会主管者及其ノ代務者竝ニ教師ノ任
免其ノ他ノ進退ヲ行フ」と定め、また同六六条が「内局会ノ議ニ付スヘキ事項左ノ
如シ」として、その五号に「住職、教会主管者及其ノ代務者ノ任免其ノ他ノ進退ニ
関スル事項」を挙げているものとすれば、管長は、宗派内の秩序を保持する為必要
と認められる限度において、前記誓約書に基づく非行を理由とする限りにおいては
前記旧宗制の一般懲戒規定によらず、これを免ずることができるものと解するを相
当とし、前記三四条、六六条はこのような途を旧宗制が認めていたものと解すべき
である。本件においては、上告人から、そのD寺住職任命に際し、被上告人B寺派
管長に差入れた原審認定の誓約書には、部内の和合を破る所為があつたときは退職
を命ぜられても異議がない旨の条項の存すること及び原判決の認定した本件退職処
分をするに至るまでの各事情を綜合すれば、かかる退職処分は、その退職処分の事
由となつた上告人の行為が、客観的に見て、部内の和合を破るものであると認めう
るものである限り(そしてその認定は第一段においては宗派部内の秩序保持の職責
を有する管長に属し、最終的には裁判所において判断すべきものである。)、旧宗
制の規定する一般懲戒処分としてでなく、前記三四条、六六条の特別処分としてこ
れをなしうるものと解することができるのである。そして原審は、上告人の行為が、
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右誓約書の部内の和合を破る行為に該当するものであることを認定しており、その
認定は、原審挙示の証拠により当審においてもこれを是認できる。されば被上告人
B寺派管長が前記誓約書に基づき、上告人に対し免退職の辞令を発したことは何ら
違法ではなく、原判決の判断は結局正当なるに帰する。それ故所論は採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 入 江 俊 郎
裁判官 真 野 毅
裁判官 斎 藤 悠 輔
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